処方箋の保管について

2021/06/23

はじめに

皆さんが病院などの医療機関を受診して薬による治療が必要になると、処方箋が交付されます。ご存じのとおり、この処方箋 を薬局(一般的には「調剤薬局」や「処方箋薬局」と呼ばれていることもあります)に持参すると薬を調剤してもらい、購入 することができます。
今回は、この「処方箋」の保管について紹介させていただきます。

処方箋とは

処方箋の記載内容、交付から保存までの扱い、調剤したときに作成される調剤録の扱いなどについては、「医師法」「歯科医 師法」「薬剤師法」「薬事法」とそれぞれの施行規則、健康保険による調剤については「健康保険法」に基づく「保険医療機 関及び保険医療養担当規則」で規定されています。[※1]

(1)交付

「医師法」および「歯科医師法」では、患者を診察した医師または歯科医師が、患者に対して治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合は、その患者または看護にあたっている者に処方箋を交付しなければならないと定められています。

(2)記載事項

「医師法施行規則」および「歯科医師法施行規則」で、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量、発行年月日、使用(有 効)期間、医療機関の名称と所在地または医師もしくは歯科医師の氏名と住所を記載し、記名押印または署名しなければならないことになっています。

(3)調剤

「薬剤師法」により、薬剤師は、医師または歯科医師が交付した処方箋による調剤を求められた場合、正当な理由がない限り 調剤しなければなりません。また、薬剤師は処方箋を確認しなければならず、記載内容に疑義がある場合は交付した医師また は歯科医師に問合せをすることを義務付けられています。調剤を行った場合は、調剤済みの旨(または調剤量)、調剤年月日 などを記入し、記名押印または署名しなければなりません。

(4)分割調剤

長期投薬で薬の保管や服薬管理が難しい場合、後発医薬品(ジェネリック医薬品)を試用する場合、医師の指示がある場合 は、一つの処方箋に対する調剤が3回まで分割される場合があります。この場合、最終的に調剤済みとなるまでの間、調剤後 の処方箋は患者に返され患者側で保管し、次回以降の調剤はその処方箋を用いることになります。

(5)調剤録

「薬剤師法」により、薬局開設者は薬局に調剤録を備えることが義務付けられており、薬剤師が薬局で調剤したときは「薬剤 師法施行規則」で決められた内容を記入しなければなりません。

(6)処方箋および調剤録の保存[※2]

「薬剤師法」で、薬局開設者は、調剤済みとなった処方箋を、調剤済みとなった日から3年間保存しなければならないことになっています。また、調剤録は、最終記入日から3年間の保存期間が設けられています。
ただし、 薬局が生活保護法に基づく指定医療機関や指定自立支援医療機関の場合など、状況によっては5年間保存することが求められます。また、平成29年の民法改正(令和2年4月1日に施行)により健康保険に関する医療関係の短期消滅時効が廃止され、原則的に消滅時効期間が診療月の翌月(国民健康保険の場合は翌々々月)の1日から5年間で完成するとされたことに伴い、実務上、保存期間を5年に延ばすことも想定されます。

処方箋の保管

処方箋は、偽造、改ざん、誤用、再利用などを防ぐ観点から現物性が重要であるとされ、e-文書法[※3] が施行された際も、電子データでの交付、紙で交付された処方箋の電子化および電子化保管は認められず、保管場所も薬局内とされていました。現在では電子データでの交付も電子化保管も許容されていますが、診療録(カルテ)同様に取り扱いには注意が必要です。
ここでは、紙で交付された処方箋の保管について説明していきます。[※4]

(1)紙のまま保管する場合

紙媒体のまま保管する場合は薬局外での保管も認められていますが、次の点に注意する必要があります。

紙のまま保管する場合の例

(2)電子化して保管する場合

紙で交付された処方箋を電子化して保管する場合は、紙で運用された診療録等を電子化して保管する場合と同じ扱いになります。ただし、電子化できるのは、調剤が完了し、薬剤師が記名押印または署名した後になります。薬局で処方箋を受け取った直後や、分割調剤となった際に最終の調剤が完了する前などに電子化することは許されていません。調剤済みとなってすぐに 電子化する場合は、調剤済みとなってから1~2日以内に電子化しなければなりません。また、過去に蓄積された処方箋をま とめて電子化する場合は電子化する時期に制限はありませんが、事前に患者等の同意を得る必要があります。電子化のためのスキャンでは、情報量の低下を防ぎ、保存義務を満たすことができるような一定の規格・基準を満たすスキャ ナを用い[※5]、スキャニング時に重なりや折れ、スキャン可能範囲から外れがないかなどを確認します。スキャンした画像情 報は、汎用性が高く可視化するためのソフトウェアに困らない形式で保存します。具体的には、PDF[※6]、JPEG[※7]、PNG[※8] な どがあります。画像圧縮に関しては、業務に支障がなく紙の原本の状況が判定可能な精度を保つように留意することで非可逆 圧縮[※9] も許容されています。電子化においては、電子データの改ざんを防止するため、運用管理規程を定め、情報作成管理者を配置し、作業責任者の電子署名[※10] およびタイムスタンプ[※11] 等を遅滞なく付与しなければなりません。すでに電子化した処方箋を修正する場合は、元の紙の処方箋や電子データから印刷したものではなく、電子化した処方箋を電子的に修正する必要があります。その際は、処方箋を電子化したときに付与した電子署名を検証可能な状態で維持したうえで、修正後に新たに薬剤師の電子署名を付与する必要があります。
紙を電子化した場合に限らず、法的に保存義務のある文書等を電子的に保存する場合の要件として、真正性、見読性、保存性 を求められます。また、処方箋は個人情報が記載されている文書であるため、個人情報の保護も求められます。以下に、各要件の概要を述べます。

電子化して保管する場合の例

電子処方箋

最初から電子的に作成された処方箋により交付から調剤、保管までのすべてを実施する方式を電子処方箋と呼びます。法令による許容やガイドライン[※12] の公表など制度面での対応はすでにできていますが、実際の運用はまだ始まっていません。これは、診療録(電子カルテ)と違い特定の医療機関で電子処方箋が導入されただけで運用に入ることはできず、医薬分業・フリーアクセスを実現するためにも、なるべく多くの医療機関と薬局で導入される必要があるためです。また、費用負担のあり 方も問題になっています。医療分野の情報化を目指す厚生労働省は、当初の計画を前倒しして、2022年夏を目途に電子処方箋の運用を開始する方針で普及促進を図っています。電子処方箋を導入するメリットとして、次のようなものが挙げられます。

電子処方箋の場合の例

電子処方箋の運用は、「電子処方箋管理サービス」と呼ばれるサービスに医療機関が電子処方箋を登録し、薬局が同サービスからその処方箋を取得することで行われます。電子処方箋管理サービスのベースとなるシステムは、クラウドサービスを利用した構成とすることが推奨されています。また、電子処方箋の送受信に電子メールやSNSは利用せず、地域医療情報連携ネットワークなどセキュリティの高い専用ネットワークサービスを利用することが求められています。医師・歯科医師や薬剤師 の記名押印または署名に代わるものとしては、認定特定認証局またはHPKI認証局による電子署名[※10] が推奨されており、電子署名にはタイムスタンプを付与することになっています。

電子処方箋の場合の図

調剤済みの電子処方箋の保管は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.1 版」に従うことになっており、真正性・見読性・保存性を確保した状態で保管する必要があります。外部保存も認められており、運用方法によっては、磁気テープや光ディスクなどの可搬媒体を利用して外部保管することでネットワークに関する危険性を避けることができ、真正性を確保しやすくなるとも言われています。

おわりに

処方箋の保管期間を実務上5年3か月に延ばすことも想定されるようになったことで、これまでより物量にして7割増しの処方箋を1.7倍の期間保管しなければなりません。弊社では、紙の処方箋の外部保管や電子化しての保管、来年度から計画されている電子処方箋の可搬媒体による外部保管などのご相談を受けさせていただきます。ご検討の際には、一度お問い合わせください。

※1処方箋は医師、歯科医師または獣医師が交付できることになっていますが、ここでは医師および歯科医師に絞って紹介させていただきます。※2意味的には「保管」ですが、法律用語に合わせて「保存」と書きます。※3「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2本の法律に対する総称の通称です。※4詳細は『「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について』(平成25年3月25日 厚生労働省通達)ならびに『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5.1 版』(令和3年1月 厚生労働省)を参照してください。※5第3版のガイドラインまでにあった「300dpi以上、RGB各8ビット以上」という旨の記述は削除されていますが、「不用意に精度を下げることを推奨して
いるものではありません。」とも言われています。
※6Portable Document Format (拡張子:pdf)※7Joint Photographic Experts Group (拡張子:jpg)※8Portable Network Graphics (拡張子:png)※9圧縮後に伸張(復元、解凍)したときに、完全には元に戻らない圧縮方式を「非可逆圧縮」と呼びます。JPEGが代表的な方式です。完全に元に戻せる圧縮方式は「可逆圧縮」と呼ばれます。※10特定認証業務として主務大臣に認定された認証業務を行う認証局またはHPKI認証局等の発行する電子証明書を用いた電子署名を付与しなければなりません。
「特定認証業務」は「電子署名法:電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)」で規定されており、認証事業は法務省/総務省/ 経済産業省で公示されています。
HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure:保健医療福祉分野における公開鍵基盤)とは、医師や薬剤師など26種類の保健医療福祉分野の国家 資格と院長など5種類の管理者資格の確認機能を有する電子署名や電子認証を行う基盤です。ISO 17090(Health informatics – Public key infrastructure)に準拠した証明書のポリシを厚生労働省が公表しており、現時点では日本医師会、日本薬剤師会、医療情報システム開発センターの3者がHPKIカードを発行しています。
※11「タイムビジネスに係る指針 -ネットワークの安心な利用と電子データの安全な長期保存のために-」(総務省 平成16年11月)等で示される時刻 認証業務の基準に準拠し、一般財団法人日本データ通信協会が認定した時刻認証事業者のものを使用なければなりません。※12『電子処方箋の運用ガイドライン 第2版』(令和2年4月30日 厚生労働省)。本項の詳細も、このガイドラインを参照してください。

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この記事は2021年6月23日時点の記事です。

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