出世したくない若者は無気力なのか
2022/01/25
はじめに
この記事を見ている方の中には、同期としのぎを削り深夜残業や休日出勤など、色々な代償と引き換えに管理職ポストを獲得した人も多いのではないでしょうか。
まさに「24時間、戦えますか」ってなつかしいですね。(現代だと「コンプラ、守ってますか」ですかね。)
また、さらなるキャリアアップを目指して転職を行い、その目的を達成した方もいるでしょう。
そういう方から見ると、出世や昇進をしたくないと言い切る若者は、どこか物足りなく無気力に感じるのではないでしょうか。ただ、そんな単純な事なのでしょうか。
取り巻く状況を少し考えてみたいと思います。
コミットメントの低下
会社が倒産しない限り定年まで雇用される終身雇用制度は、日本独自の雇用慣行です。
社員は定年までの雇用と安定した収入が約束される「安心」と引き換えに、長時間労働や転勤、年功型給与を受け入れてきたと言えます。
しかし、労働人口の低下や労働生産性の低下に伴い、終身雇用制度の見直しは日本企業にとって避けて通れない道となっており、社員にとっての「安心」を脅かしつつあります。
また、リストラクチュアリングに伴う人員整理を、業績悪化時ではなく業績好調時に行う大手企業も現れ世間を驚かせた事は記憶に新しいと思います。
この様に、いつ自分がどうなるか分からない不安が、「責任をもって積極的に自分が関わっていくこと」すなわちコミットメントの低下を招いているのではないでしょうか。
前述調査の「就労意識」の設問で、5年前と比較しプラス面で変動が大きかった上位3項目は以下の通りです。※カッコ内は5年前との差です。
・職場の上司、同僚が残業していても自分の仕事が終わったら帰る
49.4%(+14.3ポイント)
・仕事はお金を稼ぐための手段であって面白いものではない
42.3%(+9.6ポイント)
・職場の同僚、上司、部下などとは勤務時間以外はつきあいたくない
30.1%(+8.9ポイント)
どこか割り切った考え方が増えてきたと言えます。
“こうあるべき”から“こうありたいへ”
セクシュアリティの多様性やジェンダーレスの気運が世界中で高まる中、2021年6月30日、アメリカ合衆国国務省は国民がパスポートを申請する際の手続きを変更し、申請者が性別を自分で選べる様にすると発表しました。これにより、トランスジェンダーの人々は心のままに性別を選択する事が可能となりました。
日本では、副業の解禁、週休3日制、45歳定年制の検討など、今までにない働き方の検討が急ピッチで進められています。
この2つはもちろん全く別の分野の話ではありますが、今までの固定概念を根底から覆したという点では同じという見方もできます。
また、情報革新も目覚ましく、インターネットにさえ繋がっていれば、能動的に世界と繋がる事が出来る為、情報は与えられるものではなく、獲得するものという意識変革も社会に浸透してきたと言えると思います。
心に燻っていた感覚、感情を今までの概念にとらわれずに個人で発信できる、そしてそれを社会は新たな価値観で受け入れる、双方の状態が整い交わる事で、「自分らしくある為にどう生きるか」を若者は自らに問い始めたのではないでしょうか。
出世したくない若者は無気力なのか
生活の安定を約束していた終身雇用制度の崩壊、各分野で取り壊される「壁」。
そしてその情報にリアルタイムに触れ、自分自身の価値観が揺さぶられる生活。
若者だけでなく現代に生きる人すべてが晒されている状況と言えます。
我々が諸先輩方に引き継がれた時代を懸命に生き抜いたように、今の若者も我々が築いてきた時代に向き合い、彼らなりの新たな価値観を模索しているように感じます。
「会社に依存できない以上どうするか」「自分らしくある為に」。
今の若者は無気力なのではなく、出世に代わる新たな価値を見出さざるを得なくなっているだけで、それに我々が気付いていないだけではないでしょうか。
「生き残るのは、最も強い種でも、最も賢い種でもなく、環境の変化に最も敏感に対応できる種である」
言わずと知れたチャールズ・ダーウィンの金言です。
若者の変化する新たな価値観をどう理解し昇華させる事が出来るか。
この問題に我々は「気力」を持って向き合う必要がありそうですね。
参考データ 公益財団法人日本生産性本部 「平成31年度 新入社員働くことの意識調査結果」https://www.jpc-net.jp/research/detail/002741.html