紙の一生

2022/04/19

紙とデジタル

情報保存の形式として古来より紙が用いられてきました。近年では電子化が推進されており、デジタルでの情報保存が増えてきています。「電子化が進めば紙はなくなる」とよく聞きますよね。確かに紙に記録された情報は検索性が高いとは言えず、デジタルの検索性には足元にも及びません。しかし、長期保存(特に永年保存などの超長期保存)の点ではどうでしょうか。

情報保存媒体としての紙

デジタル情報を記録する媒体として、20代以下の人には馴染みがないフロッピーディスク、次にCD-R、DVD-R、HDDときて、最近はクラウド上に保存することが多いでしょうか。記録媒体の形式もこのように様々で、読み込むための機器がなければデータを取り出したり、参照したりすることが難しいものです。
 また、データ自体の形式も様々でMicrosoft社のOfficeソフトで生成されるdocxなどの各種形式、Adobe社のPDFなどが代表的ですね。一太郎のJTDなどをまだ使われている方もいると思います。こちらもサポートが終了するとデータの参照が難しくなってしまうと推測します。
 一方で紙はほぼ他の要因に影響されることなく利活用が可能です。この点で紙の長期保存性には優位性があります。1,000年以上前の文書が今なお保存されて、私たちに当時の状況を教えてくれている点で実証されていると思います。
 検索性をとるか、長期保存性をとるかという点でデジタル/紙の情報保存手段を決定するのがよさそうです。文書の法定年限は長くて10年ほどなので、基本はデジタルでの保存を行いつつ、一部の永年保存が要求されるものについては紙での保存を行うなどの方法をとることが考えられます。ただし電帳法の改正が行われましたので、法律の要求に沿って文書を保存していかなければなりません。
 では保存期間を過ぎた紙がどうなっていくのかを見ていきましょう。

役目を終えた紙

情報保存媒体としての役目を終えた紙はいったいどうなるのでしょうか。
ビジネス文書はインクを含む古紙として、ダンボールの板紙や包装用の紙や、インクを除去されて漂白した再生紙としてリサイクルされます。薬局などで売られているトイレットペーパーはそのほとんどが再生紙を利用して製造されたものです。機密書類であったものが日常生活に戻ってきていると考えると不思議な感じがしますね。
 次のグラフは古紙の回収率とその利用率を記したものです。日本製紙連合会の発表によると日本の古紙利用技術は高いレベルにあり、原料としての古紙の質と要求される製品の質からいって、現在はリサイクルできる限界に近い水準のようです。古紙の質と言われてもピンと来ないかもしれません。実は一般的にシュレッダーで断裁された紙は繊維を短くしてしまうため、再生紙の原料に不向きと言われています。つまり「なるべく断裁せずに原料として用いた方が環境にやさしい」ということなのです。

グラフ

(出典)製紙産業からみた次期古紙利用率目標について (グラフは筆者が作成)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/034_03_02.pdf

古紙の歴史

古紙リサイクルの歴史を振り返ってみましょう。日本では11世紀あたりから保管期限が到来した紙をリサイクルしていたようです。当時の紙は高級品で、税金を紙で支払うこともあったくらいですから、使い終わったものは資源として再利用していたわけですね。“MOTTAINAI”精神です。ただ、リサイクルの過程で古紙に残る墨を除去する技術が未発達であったため、薄く墨が残った状態で再生されており、薄墨紙とも呼ばれていました。
 資源としての再利用はなにも紙の原料としてだけではなく、他の用途にも活用されています。例えば本来の用途を終えた紙がそのまま襖絵などの下張りに利用されていました。これが結構おもしろいのです。下張りとは紙を補強するために幾重にも紙を重ねていくことですが、保存期限を終えた文書がそのまま貼り重ねられて現在に残っているわけです。今でいえば「裏紙利用は情報漏洩につながる!」とお𠮟りを受けそうです。しかし保存期限を終えて薄墨紙にならなかったからこそ、当時の様相を伝えてくれる史料となっているのです。

さいごに

以上、紙について簡単に見てきました。紙は丈夫で長期にわたって保存できる、人類が編み出した最高の発明品のひとつだと思います。電卓が発明されてもそろばんはなくなりませんでした(いまだに習い事のひとつですよね)。また同じように、表計算ソフトを目の前にして電卓をたたいている人を見かけたことはありませんか? 私見ではありますが、デジタル化が進んでも情報保存媒体としての紙はなくならないと思います。

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 前述の通り古紙のリサイクル技術は発達しており、古紙を繊維まで戻す過程の中で紙とそれ以外を分別することが可能です。「箱を開けて中身を紙とそれ以外に分別してリサイクルするんじゃないの? その過程で機密情報が漏れてしまうんじゃ!」というイメージをお持ちのお客様が多くいらっしゃいます。提携先の製紙工場では箱を開けることなくリサイクル処理を行いますので、機密を保ちながら情報を抹消していきます。ご安心ください!
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この記事は2022年4月19日時点の記事です。

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