レコードマネジメントとレコードマネージャー
2022/09/08
6月に「アーカイブと保管・保存」というタイトルでアーカイブとアーキビストの役割についてご紹介しました。今回は、その続きとしてレコードマネジメントとレコードマネージャーについてご紹介したいと思います。
もともとアーカイブという概念はヨーロッパ社会を中心に発達したもので、後世に残すべき記録を保存することを前提としており、保存する記録の選別と評価という点においてアーキビストの存在意義が生まれたと言われています。
一方で、レコードマネジメントという概念があります。(英語ではRecords Managementなので正確にはレコーズマネジメント)
これは、1950年代、米国を中心に生まれた概念で、文書をレコードとアーカイブに分けて、特にビジネスで活用する現用文書をレコードとして管理することから生じたものです。
現用文書は、ビジネスに活用され、法律に基づき保管され、不要となったものは廃棄されますが、このプロセスを管理するのがレコードマネージャーと呼ばれる職位の役割となります。
レコードマネージャーは現用文書を管理し、アーキビストはそれらを選別・評価して非現用文書として保存する、という流れになります。
-
ドキュメント
(文書) -
レコード
(現用文書)
活用・保管・廃棄
レコードマネージャー -
アーカイブ
(非現用文書)
選別・評価・保存
アーキビスト
レコードマネジメントという概念は米国を中心に発達し、レコードマネジメント事業というビジネスが確立されました。一般物流倉庫業とは一線を画してレコードマネジメントサービスを専業で提供する事業者が多く存在しています。例えば、米国では州ごとに遵守すべき法律が違うこともあって、州ごとの専業レコードマネジメント事業者が存在しています。一方で、中小の事業者をM&Aにより吸収し、グローバルに事業を展開している企業もあります。
一般的にレコードマネジメントの定義は「文書の発生から保管、保存、廃棄までの文書のライフサイクルを管理すること」と言われていますが、ただ単にこの工程を管理するだけにはとどまりません。世界最大手のレコードマネジメント企業であるIron Mountain社は、その意義について以下のように説明をしています。
Good records management can help your business reduce costs, achieve compliance and increase efficiency.
(優れた記録管理は、ビジネスがコストを削減し、コンプライアンスを達成し、効率を高めるのに役立ちます)
こうした背景から、米国企業におけるレコードマネージャーは、HRマネージャー、ファイナンスマネージャーなどと同様に明確なポジションとして確立され、一定の権限が与えられ、組織はレコードマネージャーの指示に基づき統制がとれた管理を行います。
そして、レコードマネジメント事業者は、責任範囲が多岐にわたるレコードマネージャーのニーズに応えるために様々なサービスを提供することになります。
一方で、日本ではレコードマネジメントを記録管理と呼びますが、この概念が普及することはなく、単に「文書保管」と狭義の意味で解釈されることが一般的です。
元・記録管理学会会長の小谷允志氏は、日本において記録管理の概念が定着しなかった理由のひとつにレコードマネージャーがいないことを挙げています。
公文書管理法を例に、どんなにいいルールができたとしても、そのルールを司る門番が存在しなければ実態として機能しない、と問題提起をしています。また、仮にレコードマネージャーが存在していたとしても、その権限と役割が不明確であれば同じく機能することはないだろう、とも言っています。
レコードマネジメントが組織で機能しないその他の理由としては、組織における文化や特性が挙げられます。例えば、データや資料によって事実を追求するよりも、忖度や解釈によって意思決定される組織文化や、責任追及の曖昧さ、過去から学ぶことへの意識の低さ、などです。そのような組織において、記録の存在はむしろ弊害とさえなり得るものであり、書類やデータで物事を伝達することよりも口頭で伝えることのほうが重視される傾向が強くなります。
このようにレコードマネジメントの概念が定着していない日本企業では、このレコードマネージャーの役割を総務部などの管理部門が担うことが多く、企業から求められることは本質的には同じかもしれませんが、欧米に比べるとその権限や役割は限定的と言えます。
例えば、昨今の米国のレコードマネージャーたちが取り組んでいる課題は、e-Mailの管理、電子文書のライフサイクル管理、訴訟対応としての電子記録の証拠能力対策(eーディスカバリー)、大量情報の検索利用の効率化など、もはや電子記録情報の領域に及んでおり、Records Management から Records and Information Management へと呼び方が変わってきています。
一般的な日本企業でこの広範囲の領域をカバーしようとすると、総務部だけでなく、IT部門、リスク管理部門など組織横断で動く必要があることからも、ひとつの役職としてこれらをカバーするレコードマネージャーの存在意義と有用性については容易に想像がつくかと思います。
今回は、レコードマネジメントとレコードマネージャーについて紹介させていただきました。
今後、DXの加速化が求められている日本において、アナログ(文書)とデジタル(データ)の共存あるいは融合というフェーズを迎える中、単なる文書保管ではなく、Records and Information Managementを担う広義のレコードマネージャーの必要性が見直される機会となるかもしれません。