文書管理における「保管」と「保存」の定義とその移行基準
2026/02/05

はじめに
オフィスのデスクやキャビネットが書類でいっぱいになり、「あの書類はどこにやったかな?」と探し回った経験は誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。
企業の活動において、文書は意思決定の証跡や過去の記録として非常に重要な役割を果たします。
一方で、すべての文書を執務スペースに保持し続けることは、物理的空間の占有や検索性の低下を招き、業務効率を阻害する要因となりえます。
こうした課題を解決するためには、手元の文書を「活用するもの」と「証跡として維持するもの」に適切に仕分ける必要があります。
この仕分けの基準を設ける上で基本となる考え方が、文書の作成から廃棄に至る一連の流れを指す「文書のライフサイクル」です。
本稿では、混同されやすい『保管』と『保存』の違いを整理した上で、それらを実務で使い分けるための具体的な基準や、管理を無理なく定着させるための実務上のポイントについて解説します。
Contents
文書管理における「保管」と「保存」の違い
文書管理の実務において、「保管」と「保存」は以下のように明確に定義されます。
「保管」とは:日常業務で活用する文書の状態
「保管」とは、現在進行中の業務で頻繁に使用する文書を、執務室内の共有キャビネットなど作業スペースの近傍に配置し、即座に取り出せる状態で管理することを指します。
例えば、当月の売上伝票や進行中のプロジェクト資料などが該当します。
これらは「現在進行形の情報」であるため、迅速に参照できる検索性の確保が運用の主目的となります。
「保存」とは:証跡として維持する文書の状態
一方で「保存」は、日常的な業務での参照頻度は低下したものの、法令で定められた期間や、将来的な証拠(証跡)として文書を維持管理することを指します。
過去の決算文書や完了した契約書などがこれに当たります。
これらは税務調査や監査、あるいはトラブルの際に「事実を証明するもの」として不可欠なため、日常の動線を邪魔しない専用の書庫や外部の文書保管サービスなどで管理されるのが一般的です。
「保管」と「保存」を区別する実務上の理由
「保管」と「保存」の定義を明確に区別することは、それぞれの文書を「どこに置き、どのように扱うか」という判断基準を整えることに繋がります 。
ここの区別が曖昧な状態では、本来は書庫などへ移動させるべき文書が手元に留まり続け執務エリアの有効活用が妨げられる要因の一つになり得ます 。
一方で、日常的に参照すべき「保管」文書を誤って遠隔地へ送ってしまうと、取り寄せに伴う待ち時間や工数が生じ業務の機動力を損なう懸念もあります 。
「これは今使う『保管』の文書か、それとも記録として残す『保存』の文書か」を意識し、役割に合わせた場所を選択することは、情報の検索性を維持し、業務を滞りなく進めるために有効なアプローチと考えられます。
「保管」から「保存」へ移行する基準
日常的な「保管」状態から「保存」へ切り替える際、明確な判断基準があれば現場での迷いを防ぐことができます。
ここでは、「時間」と「文書の状態」という2つの軸で考える方法を提案します。
時間軸による基準:ビジネスサイクルに合わせる
最も運用が定着しやすいのは、年度末などの区切りで一斉に移行させる方法です。
・例:年度更新を基準にする
会計年度の終了時を基準とし、前年度分を一括して「保存」へ移行させます。
4月などの年度の初めに手元のスペースを空けることで、新年度の文書をスムーズに受け入れる準備が整います。
・例:プロジェクトや取引の完結を基準にする
期間が決まっていない業務の場合、「プロジェクトの完了」や「取引の終了」といった一連の業務が完結したタイミングを基準に設定することが有効と考えられます。
文書の状態による基準:役割の変化で見極める
文書の役割が変化し、業務上の「状態」が切り替わったタイミングを移行の指標とします。
・取引の記録(伝票、請求書、見積書など)
これらは決算や申告の終了に伴い、文書の役割が「日常的な活用」から「記録(証跡)としての維持」へと変化(状態の移行)するため、速やかに「保存」へ移行する対象となります。
・期間の定めがある重要文書(契約書、人事記録など)
契約期間中や在職中は「保管」ですが、期間満了や退職によって権利義務を証明する「証拠としての維持」へと状態が変わった段階で「保存」へと移すのが一般的です。
・組織の基盤となる最重要文書(社内規程、議事録など)
これらは組織の基盤であり、常に最新の状態を提示できる必要があります。
そのため、これらは「保存」状態に移行させるのではなく、事務室内の施錠管理されたキャビネットなどで「常用(継続的な保管)」として管理し続けることが一般的とされています。
適正な管理を維持するための実務的な留意点
明確な基準を設けても、それが現場で実行されなければ文書の滞留は解消されないと考えられます。
管理を形骸化させず、適正な運用を継続するためには、以下のような実務的な仕組みを整えることがポイントなのではと考えられます。
作成・受領時に「いつ、どこへ動かすか」を明記する
移行作業を円滑に行うための有効な手法は、文書が作成・受領された段階で、将来の移動時期や廃棄時期をあらかじめ決めておくことです。
具体的には、ファイルや背表紙等に「202X年度末に保存へ移行」「〇〇年〇月廃棄」といった目印を記入します。
発生した時点でその後の予定を特定しておくことで、定期的な見直しの際における判断の迷いを防ぎ、一貫した運用が可能になると考えられます。
客観的な根拠に基づく保存期間の設定
文書の出口である「いつ廃棄するか」をあいまいにしないためには、法律で定められた保存年限を社内ルールに反映させることが重要です。
例えば、経理関係の書類は「法人税法」で一般的に7年、人事関係の書類は「労働基準法」で5年(当面は3年)といったように、それぞれの文書に当てはまる法律を確認し、明確な保存期限を設定します。
このように根拠のあるルールを作ることで、文書が無制限にたまり続けるのを防げるだけでなく、不要な情報を持ちすぎないことで、万が一の情報漏洩リスクを抑えることにも繋がると考えられます。
定期的な「棚卸し」による運用状況の確認
どれほど優れたルールを作っても、日常の業務に追われる中で、実務がルールから乖離してしまうことは少なくありません。
決めたルールが正しく機能しているかを確かめる「棚卸し(たなおろし)」の機会を設けることが、運用の形骸化を防ぐ鍵となると考えられます。
棚卸しでは、単に保存期限をチェックするだけでなく、以下のような「運用の健康診断」を行います。
・配置の適正化: 「保管」すべき文書が執務エリア内の適切な場所(共有什器など)に配置され、「保存」すべき文書が日常の動線を妨げない専用の場所へ区分されているか。
・ローテーションの確認: 第2章で定めた基準通りに、事務室から書庫、書庫から廃棄という一連のサイクルが滞りなく回っているか。
年に一度、全社的にこうした点検を行うことを習慣化すれば、書類の「出しっぱなし」や「放置」を防ぎ、情報の検索性と安全性を高い水準で維持するためにも、ルールを組織に定着させ、常に使いやすい職場環境を維持するためにこの継続的な検証サイクルを組み込むことが重要と考えられます。
おわりに

文書管理における「保管」と「保存」を正しく区別することは、単に執務スペースを整理するだけでなく、業務スピードを向上させ、法的なリスクから会社を守る「仕事の基盤」を整えることにつながると考えられます。
本稿で解説した基準や仕組みは、一度作って終わりではなく、日々の業務の中で運用し、定期的に点検し続けることで初めて価値を持ちます。まずは、身近な文書を「活用するもの(保管)」と「証跡として維持するもの(保存)」として意識することから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな意識の積み重ねが、合理的で安定した組織運営を支える確かな一歩になると考えております。
※本記事は2026年1月時点の法令や一般的な通説に基づいて作成されています。
具体的な法的保存期間や廃棄の判断については、最新の法令をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
