デジタルインボイスと企業のDX化
2022/10/24
2023年(令和5年)10月1日から「インボイス制度」が開始されます。インボイス制度は正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれ、消費税における適正な課税の確保と益税の解消を目的に導入されます。
インボイス制度については、「すましょの鍵」の記事(2021年7月29日)で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。https://xn--ruq167cnto080a.com/media_key/3289/
インボイス制度の導入と同時に多くの仕組みもデジタル化が可能になってきます。この制度の導入をきっかけとして、社内のバックオフィス業務の効率化をデジタル化で推進できるようにしてみてはいかがでしょうか。
インボイス制度と電子帳簿保存法
インボイス制度を導入すると、さまざまな手間が増加します。例えば、
・ 仕入が発生する度に、課税事業者か免税事業者を仕分けなければならない
・ インボイスを発行者、受領者の両方が保存する必要があるため管理の手間が増える
・ 〇〇一式と商品をまとめて記載をしていたものでも、商品ごとに分けなければならない
これ以外にも経理を担当するセクションでは、消費税の計算に関する手間は間違いなく増加します。
これらの作業をデジタルで対応できれば、効率化につながることは間違いありません。
一方、インボイスのデジタル化は、帳簿や証憑類のデジタル化が容易にできることがポイントとなります。電子帳簿保存法は施行後、多くの改正が実施されていて、インボイス制度における様々な作業のデジタル化が容易になってきました。簡単に電子帳簿保存法の変遷を紹介します。
1998年:電子帳簿保存法開始
2005年:電子帳簿保存法スキャナ保存制度開始(3万円未満の金額基準あり)
2015年:3万円未満の金額基準撤廃、電子署名も不要に。
2016年:デジカメやスマホも対象に。証憑を受け取った本人がスキャンする場合は自署が必要
2019年:過去分の重要書類も税務署に届出すれば対象に
2020年:コーポレートカード等キャッシュレス決済の場合は領収書不要に
2021年:タイムスタンプ要件緩和、適正事務処理要件廃止、検索要件の緩和
2022年:「国税関係帳簿書類の電子化要件の緩和」と「電子取引の電子データ保存義務化」
電子帳簿保存法については「わかりやすく説明!電子帳簿保存法」(2022/02/22)でも解説していますのでご参照ください。
https://xn--ruq167cnto080a.com/media_key/3946/
インボイス制度を効率的に導入してもらうためには、デジタル化手続きの簡素化が必要になり、電子帳簿保存法も、より使いやすいように改正された要因の一つになっています。
インボイス制度とデジタル化
インボイス制度はデジタル化の推進を目的とするものではありません。「消費税における適正な課税の確保と益税の解消」が目的です。ただ、これを導入すると手間が増加して、企業の経営にも影響を与えてしまうことになります。より効率的にインボイス制度における作業をしてもらうためには、デジタルによる処理が重要になり、障害になりそうな法的部分を変更しています。
一方、企業にとっては、消費税に関わる部分だけが独立のシステムでデジタル化されても、システムの数が増えたり、データのやり取りが複雑化してしまいます。このような状況に対して、企業のさまざまな財務に関するデータ処理をできるだけ統合できるような動きが既に開始されています。それを推進しているのが「デジタルインボイス推進協議会」 (英語名称:E-Invoice Promotion Association/略称EIPA)です。
デジタルインボイス推進協議会(EIPA)について
EIPAは2020年7月29日に設立されました。EIPAの設立の目的は以下の通りです。
(EIPAのホームページ(https://www.eipa.jp/about-us )から抜粋)
『2020年6月に「社会的システム・デジタル化研究会」が発表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」において、2023年10月の適格請求書等保存方式の開始に際し、社会的コストの最小化を図るために、当初からデジタルインボイスを前提とし、デジタルで最適化された業務プロセスを構築すべきとしました。(中略)
本会は、標準化・全体最適化され、現行の制度・仕組みからの移行可能性に配慮されたデジタルインボイス・システムの構築・普及を通じて、商取引全体のデジタル化と生産性向上に貢献することを目指し、活動します。』
この中で注目すべきはデジタルインボイスを通じて、企業の商取引全体のデジタル化を推進しようとしていることです。インボイス制度をデジタルによって合理化すると同時に、それに関連する社内の業務も処理できるシステムにする考え方です。
具体的な概念についても、EIPAが全体を俯瞰できる下の図を公開しています。
(EIPAホームページより)
デジタルインボイスの導入で達成する範囲は上の図の赤い囲った部分になりますが、業務プロセスの前段階にあたる取引部分(受発注や納品検品、見積もりや契約)なども一括して管理できる仕組みにしようとするものです。
一括管理できるようになれば、企業にとって多くのメリットが得られます。しかし、データのやり取りは社内だけで完結できるものではなく、取引先の企業とのデータの一貫性も必要になります。例えば、EDIの仕組みを採用している企業から何かを仕入れる時には、その企業のEDIに合わせた対応が必要になる場合があります。そうすると取引している企業が増えるほど、個別の対応が必要になってしまいます。
そこで、仕組みがバラバラにならないように仕様を統一する動きが出てきました。そこで注目されたのが国際標準規格のデジタルインボイス「peppol(ペポル)」でした。
Peppolについて
「Peppol(ペポル)」を導入している国は世界各国に広がっており、欧州を中心に、オーストラリアやニュージーランド、シンガポールをはじめとした30か国以上で採用されている国際標準規格です。これをそのまま日本に導入するのではなく、Peppolを基準にして日本の商習慣にマッチしたものにしていくようです。
Peppolを標準規格として採用する理由は、国際化している商取引の中で海外と共通した仕組みにすることで、取引が容易になるからです。しかし、最も大きな目的はデジタル化のコスト負担が厳しい中小企業でも導入を容易にすることです。実際に、海外では中小企業にとって操作が容易なので導入しやすいし、コストも低く抑えられるとの評価があります。
日本も同様に中小企業のバックオフィスのためのデジタル化が進めば、DX化が加速すると期待されています。
中小企業のデジタル化
大手企業ではインボイス制度の導入に伴って、商取引のデジタル化に向けて準備が進んでいます。しかし、日本の99.7%を占めると言われる中小企業では、まだまだ紙をベースにした取引が多くを占めています。また、中小企業、士業やフリーランスなどの個人事業主が企業と取引をする際に、適格請求書発行事業者であることが求められるケースが増えます。
適格請求書発行事業者になると、請求書の保存と管理などの手間は間違いなく増加します。紙で各種書類を管理している企業や個人事業主のDXはとても大切な部分ですので、Peppolなどで標準化された仕組みを導入することの検討を開始した方が良いかもしれません。
最後に
説明してきたように、2023年に開始されるインボイス制度を契機に、企業の様々な分野でデジタル化が急激に進んでいく可能性が高くなっています。インボイス制度に対応する動きだけではなく、この機会をとらえて、社内のDXについての戦略の見直しや、バックオフィス業務の効率化を検討してみてはいかがでしょうか。