「文書管理規程」に「文書のライフサイクル」という視点が入ると?
2025/12/22

はじめに
企業の活動において、文書は知識や証拠、履歴として非常に重要な役割を果たしています。
しかし、その文書を「どのように扱うか」というルールが明確でないために、必要な文書がすぐに見つからなかったり、保管期限を過ぎた文書が放置されたりといった課題を抱えている企業は少なくないのではないかと考えております。
この記事では、文書の「発生」から「廃棄」までの一連の流れを統一的に管理するために不可欠な「文書管理規程」において、文書のライフサイクルを意識することで何が変わるのか、一般的な観点からお話しさせていただきます。
文書管理に初めて取り組むご担当者様や、現行の管理方法に課題を感じているご担当者様の一助となれば幸いです。
文書のライフサイクルとは
「文書管理」と聞くと、単に文書を保管することや廃棄することをイメージされるかもしれませんが、文書はその役割を終えるまでにいくつかの段階を経ています。これが「文書のライフサイクル」と呼ばれる考え方です。
文書のライフサイクルは、一般的に以下のような段階で構成されていると考えられます。
1.発生・取得:文書やデータが作成されたり、外部から受け取られたりする段階。
2.活用:業務の遂行や意思決定のために参照・編集される段階。
3.保管:利用・活用頻度が高い(現用)文書を、日常業務の近くに置いて、すぐに取り出せる状態で管理する段階。
4.保存:利用・活用頻度は減るものの、法的な義務や証拠、将来の参照のために、長期的な保持が求められる文書を、セキュリティや耐久性の高い場所で管理する段階。
5.廃棄:定められた保存期間が満了し、法的な義務や業務上の利用価値がなくなった文書を、機密保持に配慮して適切かつ確実に処分する段階。
[文書のライフサイクル図]
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この一連の流れのうち、特定の段階だけに焦点を当てて管理をしても、文書管理全体として見た場合に非効率な部分やリスクが残ってしまう可能性があります。
「文書のライフサイクル」を意識すると?
文書のライフサイクル全体を通じて、「誰が」「いつ」「何を」「どのように」扱うのかを一貫性をもって定めるのが「文書管理規程」の理想ではあるものの、実際にそれを意識していると感じる文書管理規程は少ないのではないでしょうか。
それでは、文書のライフサイクル(発生から廃棄まで)という考え方を規程に取り入れることで、文書管理規程の在り方がどのように変わるのかを下記で述べたいと思います。
文書管理規程に一貫した軸が通る
文書管理規程は組織における文書取り扱いの原理原則を定めるものです。
ここに「発生から廃棄まで」という時間軸の概念を組み込むことで、個別に定められた各条項が、文書のライフサイクルを網羅する一つの軸として整理されます。文書のライフサイクルの視点を軸に据えることで、下位のガイドラインやマニュアルを策定する際にも、それらを支える一貫した指針として機能しやすくなります。
管理上の判断基準(定義)が整理される
文書管理規程において文書のライフサイクルの概念を取り入れることで、文書の各段階における「定義」が整理されます。
例えば、日常的に使用する「保管」と、法令等に基づき一定期間保持すべき「保存」の区別を明確に定義し、「どの段階で保管から保存へ移行させるか」という管理上のポイントを原則として示すことが可能となります。
規程においてこれらの定義や基準が明確になることで、組織全体で一貫した判断が可能となり、適切な文書管理を行うための共通の基準が整うことになります。
このように「文書のライフサイクル」という視点を文書管理規程に組み込むことで、個別のルールの集合体であった規程が、発生から廃棄までを見据えた「一連の体系」として整理されます。
文書のライフサイクルの概念を原理原則として定めておくことで、組織の体制変更時等にも一貫した方針の下で文書を扱うことが可能になります。
場当たり的な対応を避け、継続的な管理を行うための基準を整えることが、文書のライフサイクルを意識した規程づくりの一つの役割であると考えられます。
では、実際にこの「文書のライフサイクル」を網羅した文書管理規程を作るためには、どのような項目を盛り込み、何を検討すればよいのでしょうか。次に、規程策定において押さえておくべき具体的なポイントを見ていきましょう。
規程策定にあたって検討すべきこと
初めて文書管理規程を策定、あるいは見直しを行う際には、以下の様な点を検討の出発点とされることが一般的です。これらの検討項目は、文書のライフサイクル全体を網羅することに繋がります。
・文書の分類・体系化(発生・利用段階): 自社の文書を「重要度」「媒体(紙・電子)」「機能(経理・人事・営業など)」といった観点から整理し、体系的なファイル基準(分類コードなど)を設けることで、文書の発生時点でのルールを統一します。
・保管と保存の明確な区別(保管・保存段階): 利用頻度の高い「保管」文書と、長期保存が必要な「保存」文書を明確に区別する基準を定め、保管場所、管理方法、および保存への移行時期に関するルールを策定します。
・保存期間の設定(保存・廃棄段階): 各文書の種類ごとに、法人税法やe-文書法、電子帳簿保存法などの各種法令上の義務や業務上の必要性に基づき、明確な保存期間を定めることで、廃棄のタイミングを計画的に管理します。
・権限と責任の明確化(ライフサイクル全体): 文書の作成者、保管責任者、保存責任者、最終的な廃棄承認者など、ライフサイクルの各段階における役割と責任範囲を明確に定めることで、文書管理における誰の責任かを明確にします。
・媒体の取り扱い(発生・保管・保存段階): 紙文書と電子文書のどちらを正本とするか、スキャニングによる電子化を行う場合の作業手順や原本の取り扱いなどを定めることで、文書が利用される媒体のルールを定めます。
特に昨今では、電子帳簿保存法等の法令が求める保存要件への対応を念頭に、組織として電子媒体をどのように公式な文書として位置づけるか、という点について整理が必要になってくると考えられます。
文書管理規程は一度作成したら終わりではなく、組織の変更や法令の改正、技術の進化に応じて定期的に見直しを行い、組織の実態に合った形で運用し続けることが重要だと考えられます。
おわりに
文書管理規程は、文書の発生から廃棄までの一連のライフサイクル全体を可視化し、組織全体で統一的な管理を行うための「設計図」と言えるでしょう。
特に、文書管理についてこれから取り組む企業様や、何から手をつけて良いか分からないといったご担当者様にとって、この「文書のライフサイクルに沿った規定」の策定は、管理の土台を築くことに繋がります。これは、将来的なペーパーレス化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を、混乱なく段階的に推進する上での大きな一歩となるのではないでしょうか。
文書管理は地道な活動ですが、文書のライフサイクルの各段階で統制が取れることで、企業の透明性と効率性を高める上で、その重要性はますます増していくと考えられます。
