ブロックチェーンと文書管理

2020/12/16

はじめに

最近「デジタル人民元」という言葉をよく耳にされる方もいらっしゃるかと思います。デジタル人民元は、中華人民共和国の中央銀行である人民銀行が発行準備を進めているデジタル通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)で、主要国の中央銀行として最初に普及させることを目指して、現在、実証実験※1が進められています。この人民元のような CBDC と違い、政府や中央銀行などの国家主体が発行するわけではないデジタル通貨の一種に仮想通貨(暗号資産)があります。その代表的なものに有名なビットコイン(bitcoin)やイーサリアム(ethereum)があり、その基本技術としてブロックチェーン(Blockchain)が利用されています。※2
今回は、このブロックチェーン技術の概要を紹介させていただきます。

ビットコインにおけるブロックチェーン技術の概要

ビットコインは、法定通貨や前述の CBDC とは異なり、資産(金やドルなど)に基づいて発行されるものではなく、その価値を認めた者同士で行われる電子決済のシステムです。最大の特徴は、特定の管理人や組織、サーバが存在せず、一連の処理を政府や中央銀行のような公的機関や事業者が実行するわけではないということです。世界中の利用者が使用するコンピュータ上でソフトウェアが実行され、それらが協調して働くことにより決済が実現されており、そのソフトウェア自体も有志による開発者コミュニティによって保守されています。
ビットコインのプラットフォームは、対等なコンピュータ同士が網目のように接続されたピア・トゥ・ピア(P2P: Peer to Peer)ネットワークと呼ばれる形態で、処理の中心となるサーバと端末が結ばれるサーバ型とは異なります。例えば、送金者からの送金指示は、P2P上を順次転送され、ネットワーク上のコンピュータに伝搬し、受領者に届けられます。ここで伝搬される送金指示(送金者、送金先、金額など)の不正な書き換えを防ぐために、デジタル署名やブロックチェーンなどが利用されます。デジタル署名は暗号技術の一つで、国内法である電子署名法で規定されている方式ではなく、電子認証局による秘密鍵所有者に対する本人確認は行われず、公開鍵を告知するだけです。従って、送金指示情報や公開鍵から送金者個人を特定することはできません。

 

 

P2P上を伝搬する送金指示は、その性質上、複数の情報が届いたり、到着順序も保障されません。その矛盾を防ぎ、正しく処理を実行するために、台帳が作られます。この台帳もP2P上に分散して作成され維持されるもので、そのため「分散台帳」と呼ばれることもあります。この台帳が同時に複数作成されてしまうと正しい情報が維持されなくなるのですが、それを防ぐためプルーフ・オブ・ワーク(POW: Proof of Work)と呼ばれるメカニズムが採用されています。ビットコインでは、ハッシュ関数※3(hash function)による大量の計算を行い、適正な結果を得たコンピュータの台帳が採用されます。この処理を「マイニング」と呼びます。この台帳の一塊(例えば、通常の取引台帳の1ページ分)をブロックと呼び、約10分間隔で作成されます。このブロックに対して別の暗号化技術一つであるハッシュ関数を利用してハッシュ値※3(hash value)を計算し、そのハッシュ値と計算の元になったナンス値(Number Used Once)を次に生成されたブロックに書き込みます。これにより、各ブロックは、最初に生成されたもの(起源ブロック)から数珠つなぎに接続され、起源ブロックを基に辿ることにより、誤りや不正な改ざんがなかったか検証することができます。また、この正しく作成された台帳(ブロック)は、P2P上の各コンピュータに複製が作成され、それぞれがその複製を持ち合うことで相互に検証することができます。このように、各ブロックの生成、複製、検証が特定の装置やコンピュータ(サーバ)によって実行されるわけではなく、P2P上に分散して実行、保持される点がブロックチェーン技術の特徴になっています。

 

 

ブロックチェーン技術の特徴

以上のような仕組みから、ブロックチェーンは特定の機関や管理者、サーバに依存することがなく、次のような特長を持ちます。

・管理者(あるいはそのノード)が災害や故障などの障害によって機能しない場合でも、処理が継続できる
・台帳は、その複製を持ち合い保持されるため、一部が破損しても処理が継続できる
・各ブロックは、起源ブロックからハッシュ値とナンス値で順次リンクされているので、改ざんに対する耐性が高い
・また、過去、既に生成されたデータ(ブロック)を消すことができない
・台帳(ブロック)は P2P上で分散して生成され、それぞれのノード(node: ここでは、P2Pネットワークを構成するコンピュータを指すものとする)で持ち合い正しいデータが維持されるため、特定の機関や管理者が恣意的に不正を働こうとしても困難
・非可逆な処理であるハッシュ関数を利用しているため、元データに遡ることができず、秘匿性を維持できる
・比較的ローコストで実現できる

 

また、同時に、次のような欠点も持つことになります。
・過去の台帳を消したり、隠したりすることができない(ブロック内のデータは暗号化されているとはいえ、P2P上に分散して、多数の複製が存在することになる)
・台帳が巨大化する恐れがある(過去の履歴を全て持つため、ブロックの数や全体のデータ量が巨大化していきます)
・処理(合意形成)に時間を要する

ブロックチェーンと文書管理

ここまで述べてきたことからわかるように、ブロックチェーン技術は電子決済に特化したものではなく、「公正な記録・履歴を分散して残す」仕組みと言うことができます。つまり、文書管理に応用すれば、「公正な文書の履歴を残す」ことが可能ということです。そして、前項の特長で述べたように、改ざんに対する耐性が強く、恣意的な不正を防ぐことも可能です。現在利用されている文書管理システムのほとんどは、例えクラウド・タイプであったとしても、サーバ型として集中管理によって成り立っています。この場合、サーバ管理者による恣意的な不正を防ぐことは人的に実現する以外に困難で、公正性には限界があります。ここにブロックチェーン技術を採用することにより、公正な記録・履歴の保持ができる可能性が高まります。ただし、現時点ではまだ検討・検証段階のものが多く、将来的に、誰もが利用できる仕組みの早期実現が望まれます。※4

ブロックチェーン技術のその他への応用

ブロックチェーン技術の応用が検討されている分野の一部を掲げます。
・資産管理
・不動産取引
・ポイント管理
・サプライチェーン・マネジメント/トレーサビリティ
・貿易実務
・医療/調剤データ管理
・著作権情報管理
・公文書(行政文書)管理
・履歴書/卒業証明書管理

おわりに

これからは、これまでの紙(書面)をベースにした処理がデジタル化されていきます。その際、ブロックチェーン技術は、真正性、公正性を担保するための技術の一つとして考えられます。紙による文書(書面)がデジタル化されていったときの文書管理において、その履歴を正しく維持し、同じく、デジタル文書の真正性、公正性を担保するための技術の一つにもなる可能性があります。そういった意味で、現状では紙文書の保管機能を提供する「すましょ」とは直結しない話題かもしれませんが、今回はブロックチェーン技術の概要について紹介させていただきました。


※1 日本銀行の定義による「パイロット実験」 “https://www.boj.or.jp/announcements/release_2020/data/rel201009e1.pdf” 参照

※2 デジタル人民元はその仕組みが公開されていないので明確ではありませんが、所謂ブロックチェーンは利用されていないと言われています。そのため、ネットワークの電源が切れているときや、オフラインの端末同士でも決済ができます。ただし、分散台帳の技術の一部は取り入れているとも言われます。

※3 「ハッシュ関数」は、デジタルデータを特定の長さの「ハッシュ値」に変換する関数(処理)で、元となるデジタルデータが異なれば、違うハッシュ値が返されると言われています。従って、元データが破損したり改ざんされたりした場合には得られるハッシュ値が変わってしまい、変化があったことを検出することができます。ハッシュ関数は非可逆な処理で、ハッシュ値から元データを知ることはできません。ビットコインでは “SHA-256” と呼ばれるハッシュ関数が使用され、256bit長のハッシュ値が得られます。

※4 ブロックチェーンでは、投入されるデータの真偽までは管理できません。一度登録された文書の履歴は管理されますが、登録前に不正や改ざんがあった場合は防ぐことができません。これまでどおり、文書管理における作成・登録手順の管理は必須です。

 

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この記事は2020年12月16日時点の記事です。

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