「E コマース」で紙文書はどうなる?

2022/10/06

Eコマース(EC)とは Electric Commerce の略称で、日本語でいうと「電子商取引」と翻訳できます。しかし、「電子商取引」とよく使用されている「E コマース」は少しニュアンスが違っています。
Eコマースというとネットショッピングのように物品やサービスを、インターネットを通じて販売、購入するケースを想像します。一方、電子商取引というと売買だけではなく、電子契約など取引に必要な行為も範囲に含んでいることもあります。
経済産業省の定義ではEコマースを広義と狭義に分けて、インターネットの使用があるかどうかで区分しています。

 

広義:「コンピューターネットワークシステム」を介して商取引が行われ、かつ、その成約金額が捕捉されるもの
狭義:「インターネット技術を用いたコンピューターネットワークシステム」を介して商取引が行われ、かつ、その成約金額が捕捉されるもの

 

Eコマースの市場

ECは大きく BtoC(消費者向けのビジネス)と BtoB(企業間のビジネス)の二つに分けられます。この EC について、経済産業省が「電子商取引に関する市場調査」(2022 年8月 12 日)を発表しました。それぞれについて簡単に説明します。

BtoC市場規模

その中で BtoC の 2021 年の EC 市場は約 20.7 兆円でした。

(図1)経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」より

 

2020年を除いて、ECの市場規模は大きな成長率を残しています。2020年と 2021年は新型コロナの影響でサービス分野系のBtoCのビジネスが大幅にダウンしています。サービス分野系の BtoC が減少したのは外出控えなどにより、旅行サービスや運輸サービスが大幅にダウンしたためです。逆に外出控えやリモートワークなどにより物販系の BtoC が大きく伸びています。しかし、物販系の BtoCのECビジネスのEC化率は 8.78%と推計されていて、まだまだ ECの比率は低いと言えます。

Eコマースの増加と広告費の関連

電通が2022年 2月に発表した「2021年 日本の広告費」によると、広告の市場規模は 6.8 兆円(2021 年)で、コロナの影響で2020年は6.2兆円に減少したものの、2019年のレベルまで回復したようです。

 

2021年は初めてインターネット広告がマスコミ四媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)を上回りました。更にインターネット広告の中でEC系物販系ECサイトの広告費の構成比が 2019年:1.5%、2020年:2.1%、2021年:2.4%と増加しています。
一方、折りこみチラシ、DM、フリーペーパーといった従来型の紙ベースの構成比は 13.5%、11.9%、11.1%と減少しています。

 

このように紙ベースの広告の構成比は減少傾向にあり、反対にデジタル系の広告が増加しています。更に、デジタル系の広告の中でもECサイトとの連携による構成比が徐々に増加しています。

BtoB市場

一方、BtoBのECビジネスの市場規模は 2021年で372.7兆円です。BtoBの市場のEC化は、取引全体の1/3程度になってきています。

(図2)経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」より

 

2021年のBtoB系ECの市場規模は373兆円と推計されています。これを市場別に分類すると製造業と卸売業で全体の82%を占めています。市場規模の大きな分野ほど、ECの市場規模も大きくなります。

(図3)「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」のデータを図式化

 

それぞれの業種の市場規模に対して、EC化した比率は業種によって大きく異なっています。

(図4)「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」のデータを図式化

 

EC化率は製造業で最も進んでいて、建設やサービス業ではやや遅れています。
製造業の EC 化率が高いのは、コロナの影響で市場の取引規模が縮小したため、相対的にECによる取引が増加したと想定されています。また、卸売のEC化が高いのは大手スーパーなどによるEDIが一般化してきたためにEC化率が高くなっていると思われます。

Eコマースと電子化政策

図4に示すような EC 化率が進捗していない建設業界などは様々な法的な規制があったため、なかなか EC化が進みませんでした。例えば、建築や不動産に関わる取引では法律で押印の規定があったため、紙の文書が避けられませんでした。押印を不要にすれば電磁的な媒体での作業が可能になります。実際に多くの法律の改定が行われています。

押印を不要とする法律変更

デジタル改革関連法が2021年5月に可決され、デジタル社会の実現を目指す6つの法律が成立しました。 特に「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」では、押印・書面に関する合計48の法改正が盛り込まれました。
具体的にEC化が遅れている建設業に関する法改正の例を少し挙げてみます。
建築士法:設計図書・構造設計図書・設備設計図書への押印不要に改正
建設業法:見積書・特定専門工事の書面を電子化可能に改正
公共工事の前払金保証事業に関する法律:公共工事の前払金保証の請求書面を電子化可能に改正
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律:対象建設工事に関する発注者への書面を電子化可能に改正
抵当証券法:抵当証券の交付申請書への押印不要に改正
宅地建物取引業法:重要事項説明書への押印不要に改正、契約書・媒介契約書・重要事項説明書を電子化可能に改正

 

上の例は一部のみですが、多くの法改正がなされていることがわかります。紙による文書の規定がなくなることで電子化が推進されることは間違いありません。その結果、商取引全体の電子的なプロセスが可能になるので、EC化の割合は急激に伸びると予想できます。

固定電話網のIP網への移行

全国の固定電話を繋いでいるNTTの固定電話網は、加入電話の契約数が減少していることや電話の交換設備が2025年頃に維持限界を迎えることなどを背景として、2025年1月までにIP網に移行することが予定されています。(総務省ホームぺージより)一部の BtoB の EC ビジネスはこの移行によって影響を受けることが想定されます。EDIのようなBtoBのECの多くは既存の電話の通信網を通して各種のデータのやり取りが行われているからです。

 

一方、BtoCのECビジネスはほとんどがIP網で構築されているので、今後、BtoBのECビジネスのインフラが統合されてくることも予想されます。既に ECビジネスのプラットフォームを構築している企業などは、この変更に基づいた仕組みに対応しつつあり、今後はコスト面においてもメリットが大きくなることが想定されます。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の対応

2023年10月からインボイス制度が導入されます。これは請求書等の記載事項が区分記載請求書等保存方式から適格請求書等保存方式に変更になることで、売手側がインボイスを交付し、交付したインボイスの写しを保存しなければならなくなります。また、買手側は、原則としてインボイスまたは簡易インボイスを保存することが、仕入税額控除の要件となります。

 

この変更により社内の事務作業が増加することが危惧されていますが、適格請求書の内容について電子インボイスでの提供が可能とされています。この結果、紙による保存や記録が不要となるので、経理作業の効率化のためにデジタルによるシステムが加速すると想定されています。

まとめ

BtoCのEコマース、BtoBのEコマースともに市場規模は急激に伸びています。それを後押しするように、法律の変更、インフラの変更、税制の変更などが次々と始まります。さまざまな変更を個別に対応するのではなく、できるだけ効果的な対応をすることで、社内の効率化や紙文書の削減ができます。多くの変更があるここ数年のうちに文書の管理を含めた戦略を構築してみてはいかがでしょうか。

この記事は2022年10月6日時点の記事です。

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